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東京高等裁判所 平成10年(行ケ)159号 判決 1999年5月18日

埼玉県川口市大字東内野272番地

原告

和光機械工業株式会社

代表者代表取締役

大和通泰

訴訟代理人弁理士

板井三郎

谷山守

新潟県南蒲原郡栄町大字今井野新田944番地3

被告

株式会社 伊藤製作所

代表者代表取締役

伊藤勝通

訴訟代理人弁理士

吉井剛

吉井雅栄

主文

特許庁が平成9年審判第13664号事件について平成10年4月20日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1  事案の概要

1  原告の求めた裁判

主文第1項同旨の判決。

2  特許庁における手続の経緯

原告は、意匠に係る物品を「補助ローラ台」とし、その形態を別紙本件意匠図面のとおりとする登録第956723号意匠(平成4年11月20日出願、平成8年4月8日設定登録。本件意匠)の意匠権者である。

被告は、平成9年8月12日、本件意匠につき無効審判を請求し、平成9年審判第13664号事件として審理されたが、平成10年4月20日、本件意匠の登録を無効とする旨の審決があり、その謄本は同月30日原告に送達された。

3  審決の理由の要点

(1)  被告(請求人)の請求の理由

被告は、本件請求の理由として要旨次のように主張し、立証として審判甲第1号証、審判甲第2号証を提出した。

本件意匠は、先願の意匠である審判甲第1号証(本訴甲第4号証に添付)の意匠(意匠登録第891725号。先願意匠)に類似し、意匠法9条1項に該当し、同法48条1項1号により無効となるべきものである。

なお、被告が所有する実公平6-5099号公報(審判甲第2号証=本訴甲第4号証に添付)にも、前記の先願意匠の「ローラ付作業台」が開示されているから、この引用例からも前記と同様に無効理由が成立する。

(2)  請求の理由に対する原告(被請求人)の答弁の理由

原告は、答弁の理由として要旨次のように主張し、立証として審判乙第1、第2、第3号証(いずれも本訴甲第5号証に添付)を提出した。

(a) 本件意匠は、先願意匠及び審判甲第2号証の引用公報記載の卓上用ローラ付作業台に類似するものでないこと、下記の理由から明白であり、被告の主張は失当である。

(ア) 本件意匠の支持部と、先願意匠における本件意匠の支持部に相当する支承枠とを比較した場合に、本件意匠の支持部を形成する長方形のローラ枠と該ローラ枠に重合する上部枠は、スマートで均整のとれた安定感のある外観形状との印象を呈するが、先願意匠のローラ支承枠は、本件意匠のように構成されるものとは異なるもので、本件意匠に比ベ、スマートさを有するとはいえず、箱体状の極めて不安定な外観形状との印象を呈することは明らかであり、全く異なった外観形状を呈するものである。

また、先願意匠には、本件意匠のローラ枠と上部枠の重合形状やねじ軸の形状外観は全く存在しない。

(イ) 本件意匠の基板部の基枠は、先願意匠の脚端固定部と全く異なった形状を有している。

すなわち、本件意匠は、極めて安定した均整のとれた外観形状と印象を呈する。

一方、先願意匠において、本件意匠の基枠に相当するものは、固定台板上に相対向して所定の間隔をおいて設けられたコ字状の脚端固定部である。

これらの脚端固定部は共に同一形状の均整のとれたものではない。

(ウ) 先願意匠には、本件意匠のようなローラ枠と上部枠の重合形状やねじ軸の形状外観は全く存在しない。

(エ) 本件意匠の補助ローラ台は、極めて安定した均整のとれた外観形状であるとの印象を呈する。

一方、先願意匠において本件意匠の基枠に相当するものは、固定台板上に相対向して所定の間隔を置いて設けられたコ字状の脚端固定部である。

これらの脚端固定部は共に同一形状の均整のとれたものではない。

したがって、この先願意匠の固定部と本件意匠の基枠とは、明らかに異なった外観形状と印象を呈するものである。

(b) 本件意匠の補助ローラ台を構成する基板部の基枠と先願意匠の脚端固定部、本件意匠の支持部と先願意匠のローラ支承枠の外観形状は、全く異なった外観形状であるとの印象を看者に与えることは明白である。

(c) 結論

本件意匠と先願意匠とは、意匠の基本的構成態様と具体的構成態様において全く異なった態様を呈するものであり、全体的、総合的に観察評価して両者は互いに非類似の意匠であることは、何人においても明白である。

(3)  審決の判断

(a) 本件意匠

本件意匠の形態は別紙本件意匠図面に示すとおりである。

すなわち、薄い矩形板体の上面中央に、細い帯状板体から成る矩形枠体を載設した基板部と、その上方の、ほぼ矩形枠体に円筒体のローラを内設したローラ枠部とを、前面視ほぼ「X」字状に形成した昇降部により係支して、全体の基本的構成態様とし、ローラ枠部の前後の両側端寄りの部位で昇降部の上端と、基板部の枠体の前後の両側端寄りの部位で昇降部の下端とをそれぞれ係支し、ローラ枠部は、細い帯状板体から成る矩形枠体の外側に、細い帯状板体から成る一回り幅広のほぼ「コ」の字状枠体を形成して、右側面中央には摘みを設け、昇降部は、2枚の細い帯状板体をほぼ中央で交差したものを、一対にして間隔を空けてその交差の中心で軸架して表した、各部の具体的構成態様とし、さらに子細にみると、基板部の枠体の前後の中央上端を、半円状に切り欠いて表し、ローラ枠部の係止部は、左側を軸支状係止部とし、右側を長円孔状の浮動状係止部とし、基板部の係止部は、ローラ枠部の係止部と逆に、左側を長円孔状の浮動状係止部とし、右側を軸支状係止部としたものである。

(b) 先願意匠

先願意匠は、本件意匠の出願の日前の、昭和62年4月25日(前実用新案出願日援用)に出願され、平成5年11月30日に意匠権の設定の登録がなされた意匠登録第891725号の意匠であって、その願書及び願書に添付の図面の記載によれば、意匠に係る物品を「ローラ付作業台」とし、その形態は別紙先願意匠図面に示すとおりである。

すなわち、薄い矩形板体の上面中央に、細い帯状板体から成るほぼ「コ」の字状枠体を、間隔を空けて左右に相対して載設した基板部と、その上方の、矩形枠体に円筒体のローラを内設したローラ枠部とを、前面視ほぼ「X」字状に形成した昇降部により係支して、全体の基本的構成態様とし、ローラ枠部の前後の両側端寄りの部位で昇降部の上端と、基板部の枠体の前後のほぼ中央の部位で昇降部の下端とをそれぞれ係支し、ローラ枠部は、やや太めの帯状板体から成る矩形枠体に形成して、左側端面中央下部には摘みを設け、昇降部は、2枚の細い帯状板体をほぼ中央で交差したものを、一対にして間隔を空けてその交差の中心で軸架して表した、各部の具体的構成態様とし、さらに子細にみると、基板部の右側の枠体の横幅は、左側の枠体の横幅のほぼ倍に表し、ローラ枠部の係止部は、左側を軸支状係止部とし、右側を長円孔状の浮動状係止部とし、基板部の係止部は、ローラ枠部の係止部と同様に、左側を軸支状係止部とし、右側を長円孔状の浮動状係止部としたものである。

(c) 本件意匠と先願意匠の対比検討

本件意匠と先願意匠を対比すると、両意匠は、意匠に係る物品が一致し、形態については、以下に示す共通点及び差異点がある。

すなわち、薄い矩形板体の上面中央に、細い帯状板体から成るほぼ枠体を載設した基板部と、その上方の、ほぼ矩形枠体に円筒体のローラを内設したローラ枠部とを、前面視ほぼ「X」字状に形成した昇降部により係支した、全体の基本的構成態様が共通し、ローラ枠部の前後の両側端寄りの部位で昇降部の上端と、基板部の枠体の前後の部位で昇降部の下端とをそれぞれ係支し、ローラ枠部は、帯状板体から成るほぼ矩形枠体に形成して、左側端面には摘みを設け、昇降部は、2枚の細い帯状板体をほぼ中央で交差したものを、一対にして間隔を空けてその交差の中心で軸架して表した、各部の具体的構成態様が共通し、さらに子細にみると、ローラ枠部の係支部及び基板部の係支部は、軸支状係止部と長円孔状の浮動状係止部から成る態様が共通する。

一方、<1>本件意匠は、ローラ枠部の枠体を、細い帯状板体から成る矩形枠体の外側に、細い帯状板体から成る一回り幅広のほぼ「コ」の字状枠体を形成してほぼ矩形枠体に表しているのに対し、先願意匠は、やや太めの帯状板体から成る矩形枠体に表している点、<2>本件意匠は、基板部の枠体を、細い帯状板体から成る矩形枠体に形成して、前後の中央上端に半円状の切り欠きを表しているのに対し、先願意匠は、細い帯状板体から成るほぼ「コ」の字状枠体を、間隔を空けて左右に相対して表している点に差異がある。

両意匠の共通点及び差異点を総合して、両意匠を全体として検討すると、両意匠に共通する基本的構成態様及び各部の具体的構成態様は、形態上の特徴を強く表象するとともに、その余の共通点と相まって、形態全体の基調を形成するところであり、意匠の類否を左右する要部をなすものと認められる。

一方、差異点のうち、<1>については、原告の主張するように、本件意匠のローラ枠部の枠体は、細い帯状板体から成る矩形枠体の外側に、細い帯状板体から成る一回り幅広のほぼ「コ」の字状枠体を形成して表している点で、差異があるとしても、機能的にはともかく、形態全体からみると、両意匠に共通する、ローラ枠部を、帯状板体から成るほぼ矩形枠体に円筒体のローラを内設して、前後の両側端寄りの部位を係支部とした態様は、両意匠の形態上の特徴と形態全体の基調を形成するところであるから、その差異は、それらの特徴と基調を凌駕して、別異の形態を想起させるほどの差異とはいえない。

<2>についても、原告の主張するように、本件意匠の基板部の枠体は、細い帯状板体から成る矩形枠体に形成して、前後の中央上端に半円状の切り欠きを表している点で、差異があるとしても、形態全体からみると、両意匠に共通する、薄い矩形板体の上面中央に、前後を係支部とした細い帯状板体から成るほぼ枠体を載設して基板部とした態様は、両意匠の形態上の特徴と形態全体の基調を形成するところであるから、その差異は、それらの特徴と基調を凌駕して、別異の形態を想起させるほどの差異とはいえない。

そうして、これらの差異点を総合しても、両意匠の醸し出す形態全体の雰囲気を異にするほど著しい特徴を表出するものでなく、前記の共通点の奏する基調を超えて類否判断を左右するものとはいえない。

したがって、両意匠は、意匠に係る物品が一致し、形態においてもその基調が共通するものであり、差異点はその基調を凌駕するほどのものではないから、意匠全体として観察すると類似するものというほかない。

(4)  審決のむすび

以上のとおり、本件意匠は、その意匠登録出願の日前に出願された先願意匠に類似し、意匠法9条1項に規定する最先の意匠登録出願人に係る意匠と認められず、同法同条同項の規定に違反して登録されたものであるから、その余の無効事由について審理するまでもなく、その登録は無効とすべきものである。

第2  原告主張の審決取消事由

審決が、本件意匠について、「薄い矩形板体の上面中央に、細い帯状板体から成る矩形枠体を載設した基板部と、その上方の、ほぼ矩形枠体に円筒体のローラを内設したローラ枠部とを、前面視ほぼ「X」字状に形成した昇降部により係支して、全体の基本的構成態様とし」たものであるとした認定は認め、また、先願意匠についてした基本的構成態様及び具体的構成態様の認定は概ね認める。しかしながら、審決は、本件意匠の具体的構成態様の認定を誤り、また、先願意匠の具体的構成態様の認定を一部誤った結果、本件意匠と先願意匠との間の共通点を誤って認定し、また、差異点についての判断を誤ったものであり、ひいては誤って両意匠を類似するものと判断したものである。その具体的内容は、次のとおりである。

<1>  本件意匠の基板は、長辺が短辺の3倍も長く横長四角なのに対し、先願意匠は、方形に近い。審決はこれを同一視した。

<2>  先願意匠の基盤部の枠体は、横長四角のものと「コ」の字形の枠体が向かい合わせとなって相当の間隔が開かれているのに、審決は、本件意匠と先願意匠との対比検討において、先願意匠の枠体についても「細い帯状板体から成るほぼ枠体を載設した」と誤って認定した。

<3>  左側面図からみてのローラ枠部の枠体が、本件意匠は横長四角で扁平なものなのに対し、先願意匠では縦長四角を呈している。本件意匠では、ローラ枠部に、先願意匠にはみられないスライド枠体もみられる。審決は、この差異を無視して、両者を「ローラを内設したローラ枠部」と誤って認定した。

<4>  先願意匠のローラ枠部は、左側面図によって明らかなように、短辺の長さより高さの方が長いのに、審決は、これを「やや太めの帯状板体」と誤って認定した。

<5>  本件意匠では、基板部の枠体の前後の中央上端に半円状の切り欠きがみられるが、これによって、ローラ枠部を降下させた場合「X」字形脚柱の中心軸が嵌入されて隙間のない降下が実現されるのに対し、先願意匠では隙間を閉ざすこともできない。また、先願意匠の「ほぼ「コ」の字状枠体を、間隔を空けて左右に相対して表している点」(審決認定)は、脚柱の基枠というよりは、脚柱がスリッパをつっかけたという感じのもので、本件意匠の扁平な枠体とは似ても似つかない。

<6>  本件意匠のローラ枠部の枠体は、細い帯状板体から成る矩形枠体の外側に、細い帯状板体から成る一回り幅広のほぼ「コ」の字状枠体を形成して表しており、横溢したスマートさばかりでなく、機能美が誘発される。

<7>  昇降部は周知形態であり、したがって、ローラ保持枠体と基板部こそが支配的要部である。審決は、「X」字形昇降部の存在を意識しすぎている。

<8>  本件意匠及び先願意匠の意匠公報には、平成10年法律第51号による改正前の意匠法6条5項に基づき、動的意匠として出願され登録されたものである。したがって、その差異点を、補助ローラ台の高さを最も高い位置に上昇させた場合や、最も低く降下させた場合における物品の形態の変化をつぶさに検討すべきなのに、審決は、この検討をしないままに、両者が類似のものであると結論づけたもので、誤りである。

第3  審決取消事由に対する被告の反論

原告主張の取消事由は争う。本件意匠と先願意匠は類似するものであるとした審決の判断に誤りはない。

意匠の類似範囲は、美感が共通する創作同一性の範囲のことであり、創作ポイントはどこか、すなわち、美感を生じさせる部分がどこかによって決定される。したがって、意匠の要旨認定に際し、具体的構成態様を余りに細かく把握する考え方は失当である。

本件意匠と先願意匠とを全体観察により対比すると、矩形基板の上にローラを内装した箱体が存し、このローラの軸は箱体の長さ方向となるように配され、矩形基板と箱体との間にX字状部材が配されたものであるという点で、その基本的構成態様の共通性は極めて大きい。

したがって、審決が認定したように、両意匠は、「薄い矩形板体の上面中央に、細い帯状板体から成るほぼ枠体を載設した基板部と、その上方の、ほぼ矩形枠体に円筒体のローラを内設したローラ枠部とを、前面視ほぼ「X」字状に形成した昇降部により係支した、全体の基本的構成態様が共通し」、さらには、具体的構成態様における両者の差異点は、上記共通点を凌駕し得るほどの差異点とはいえず、両者は類似関係にある。

本件意匠及び先願意匠は、ともに、静の状態から動の状態への形態の変化は予測不可能なものではなく、あえて動的意匠というほどのものではない。審決も、「機能的にはともかく」として、この点を念頭に置いて判断しており、そこに誤りはない。

第4  当裁判所の判断

1  本件意匠及び先願意匠の構成態様

(1)  別紙の本件意匠及び先願意匠の図面によれば、

<1> 本件意匠が、薄い矩形板体の上面中央に、細い帯状板体から成る矩形枠体を載設した基板部と、その上方の、ほぼ矩形枠体に円筒体のローラを内設したローラ枠部とを、前面視ほぼ「X」字状に形成した昇降部により係支して、全体の基本的構成態様としたものであること、

<2> 先願意匠が、薄い矩形板体の上面中央に、細い帯状板体から成るほぼ「コ」の字状枠体を、間隔を空けて左右に相対して載設した基板部と、その上方の、矩形枠体に円筒体のローラを内設したローラ枠部とを、前面視ほぼ「X」字状に形成した昇降部により係支して、全体の基本的構成態様とし、ローラ枠部の前後の両側端寄りの部位で昇降部の上端と、基板部の枠体の前後のほぼ中央の部位で昇降部の下端とをそれぞれ係支し、ローラ枠部は、やや太めの帯状板体から成る矩形枠体に形成して、左側端面中央下部には摘みを設け、昇降部は、2枚の細い帯状板体をほぼ中央で交差したものを、一対にして間隔を空けてその交差の中心で軸架して表した、各部の具体的構成態様とし、さらに子細にみると、基板部の右側の枠体の横幅は、左側の枠体の横幅のほぼ倍に表し、ローラ枠部の係止部は、左側を軸支状係止部とし、右側を長円孔状の浮動状係止部とし、基板部の係止部は、ローラ枠部の係止部と同様に、左側を軸支状係止部とし、右側を長円孔状の浮動状係止部としたものであること、

が認められ、これらの点は、審決も認定し、原告も認めているところである。ただし、先願意匠について、ローラ枠部が、やや太めの帯状板体から成る矩形枠体で形成されている点については、後に説示を補充する。

(2)  また、本件意匠の各部の具体的構成態様は、審決が認定したとおり、「ローラ枠部の前後の両側端寄りの部位で昇降部の上端と、基板部の枠体の前後の両側端寄りの部位で昇降部の下端とをそれぞれ係支し、ローラ枠部は、細い帯状板体から成る矩形枠体の外側に、細い帯状板体から成る一回り幅広のほぼ「コ」の字状枠体を形成して、右側面中央には摘みを設け、昇降部は、2枚の細い帯状板体をほぼ中央で交差したものを、一対にして間隔を空けてその交差の中心で軸架して表したもの」であると認められる。

2  両意匠の共通点

したがって、両意匠は、薄い矩形板体の上面中央に、細い帯状板体から成るほぼ枠体を載設した基板部と、その上方の、ほぼ矩形枠体に円筒体のローラを内設したローラ枠部とを、前面視ほぼ「X」字状に形成した昇降部により係支した、全体の基本的構成態様が共通し、ローラ枠部の前後の両側端寄りの部位で昇降部の上端と、基板部の枠体の前後の部位で昇降部の下端とをそれぞれ係支し、ローラ枠部は、帯状板体から成るほぼ矩形枠体に形成して、左側端面には摘みを設け、昇降部は、2枚の細い帯状板体をほぼ中央で交差したものを、一対にして間隔を空けてその交差の中心で軸架して表した点で、各部の具体的構成態様が共通するものということができる。

3  補助ローラ台につき一般に普及している意匠の構成態様

しかしながら、甲第4号証に添付の実公平6-5099号公報(審判甲第2号証。甲第7号証)、第8号証(実開昭57-193388号公報)、第10号証(意匠登録第892787号公報。昭和63年出願)、第11号証(意匠登録第858252号公報。平成1年出願)、甲第12号証(マキタ電機製作所発行の補助ローラーのカタログ。昭和56年発行)、甲第21号証(意匠登録第639864号。昭和56年出願)によれば、補助ローラ台においては、その全体の基本的構成態様が、薄い矩形板体の上面中央に、細い帯状板体から成る枠体を載設した基板部と、その上方の、ほぼ矩形枠体に円筒体のローラを内設したローラ枠部とを、前面視ほぼ「X」字状に形成した昇降部により係支したものは、一般に意匠として普及しているものであることを認めることができ、また、具体的構成態様としても、ローラ枠部の前後の両側端寄りの部位で昇降部の上端と、基板部の枠体の前後の部位で昇降部の下端とをそれぞれ係支し、ローラ枠部は、帯状板体から成るほぼ矩形枠体に形成して、昇降部は、2枚の細い帯状板体をほぼ中央で交差したものを、一対にして間隔を空けてその交差の中心で軸架して表したものも一般に普及しているものであることが認められる。

4  両意匠の類否判断

このような事実関係の下で、本件意匠及び先願意匠の要部を検討するに、<1>正面図からみるローラ枠部が、先願意匠では、やや太めの帯状板体から成る矩形枠体に形成しているのに対して、本件意匠が、細い帯状板体から成る矩形枠体から成るものであることの差異(別紙本願意匠図面及び先願意匠図面の縮尺でみると、先願意匠が縦1.05cm、横5.7cmで、約1対5.42の比率となっているのに対し、本件意匠が縦0.4cm、横7.9cmで、約1対19.75の比率となっている。)、及び、<2>基板部の枠体が、先願意匠では、細い帯状板体から成るほぼ「コ」の字状枠体を間隔を空けて左右に相対して表しており、正面図からみると、厚みのある面が左右に配されているものが表されているのに対して、本件意匠が、細い帯状の板体から成る矩形枠体に形成して、前後の中央上端に半円状の切り欠きを表しているという差異のあることが認められる。

そして、これらの差異から生じる印象は、本件意匠においては、ローラ枠部が先願意匠より細い帯状枠体であり、基盤部の枠体も先願意匠のように分かれておらず、連続した細い帯状板体であることからして、全体としてスマートで均整がとれている印象を生じさせるのに対し、先願意匠においては、ローラ枠部が本件意匠より太い帯状枠体であり、基盤部の枠体は左右に分かれていて連続した板体ではなく、左右の長さも異なっていることから、重厚である一方で上部の方の存在感を強調させる印象となっている。この差異は、本件意匠と先願意匠の美感の相違を看者に与えていることが明らかである。

この印象の差異は、特に、<1>のローラ枠部の形状の差異により上記の印象の差異を生じさせることに伴い、上記3のように一般に普及している補助ローラ台の意匠における共通する各部の具体的構成態様を凌駕して、看者に対し、本件意匠と先願意匠との間の顕著な印象の相違となって表れるものと認められる。

5  まとめ

したがって、本件意匠と先願意匠とは、「形態においてもその基調が共通するものであり、差異点はその基調を凌駕するほどのものではないから、意匠全体として観察すると類似するものというほかない」とした審決の判断は誤りであり、この誤りは、本件意匠をもって、意匠法9条1項に違反して登録されたものとした審決の結論に影響を及ぼすものであることが明らかである。

第5  結論

よって、審決を取り消すべく、主文のとおり判決する。

(平成11年3月26日口頭弁論終結)

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)

本件意匠図面

意匠に係る物品 補助ローラ台

説明 背面図は正面図と、対称にあらわれる。

<省略>

先願意匠図面

意匠に係る物品ローラ作業台

<省略>

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